第32章 エイユウ ト ワカレノヒ
「…その口を閉じろ。
でなければ縫い付ける」
「そない怖い顔で睨まんといて」
ドン!
「…私の勝ちだギン…お前の奪った崩玉は既に私の中に無くとも…私のものだ」
「!」
「崩玉が…っ」
「何や…これは…っ」
刀を構えようとした梨央の体がトンと突き飛ばされる。
「え……?」
市丸は口許を上げる。
「やっぱりボクは君が嫌いや…梨央チャン」
振り返った市丸が悲しそうな顔で笑う。
「せやから一緒には連れて行かへん」
それを梨央は驚いた表情で見つめる。
「君はまだ死ぬべきやない」
「!」
「これからもっとたくさんの絶望を経験したらええ」
「何…言って…」
「その方が確実に幸せになれる」
切なげに笑った市丸は最期の言葉を言い残して藍染に斬られた。
真っ赤な鮮血が宙を舞う。
「───進化には恐怖が必要だ。今のままではすぐにでも滅び消え失せてしまうという恐怖が。ありがとうギン、君のお陰で私は終に死神も虚も超越した存在となったものだ」
藍染は静かに梨央を見やると…
「………っ!!」
刀を振り下ろして勢いよく弾き飛ばした。
「かはっ」
壁に激突して全身を打ち付ける。
ビュンッ
「!!」
痛みで苦しむ暇も無く、目の前に現れた藍染が刀を振り下ろす。
ガキィン!!
「ぐ……っ」
咄嗟に自分の刀で防ぎ止める。
刃同士のぶつかり合う音がガチガチと鳴る。
だが所詮は男と女の力の差。
全身の痛みを抱えて戦うには不利な梨央が簡単に吹き飛ばされ、路上に倒れ込んだ。
「梨央!!」
「!」
しまった!
まだ近くにいたのか!
「な…何だ…あれ…!?」
ゴトンッ
「あ…有沢!観音寺!!」
たつき達は地に伏せる。
そんな彼女達を悔しそうな表情で見る。
どうして こんなにも弱い
どうして 何も護れない
もっと 強くなりたい
大事な人達を護れる強さが欲しい
あの頃みたいに
何もできずに泣くのは嫌なんだ
何も護れず 後悔だけはしたくない
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