第3章 書類配りI
「今回の書類は僕が隊長本人に渡すよう言われてますので副隊長に預けるわけにはいきません」
「うるせェんだよ。先輩命令が聞けねぇのか?目上の人には敬意を払って接しろ。霊術院でそう教わんなかったか?」
前髪を掴む手に力が込められる。
「(これは…流石の私でもキレる…)」
ふと冷たい眼をした流歌が大前田の胸ぐらに手を伸ばす。
いくら優男を演じても中身は兄譲りの短気な性格。隊士達から罵倒を浴びせられ、終いには殴られ、眼鏡が吹き飛ぶ始末。
既に拳を握るだけでは怒りが収まらなくなった流歌が大前田の胸ぐらに手が触れようとしたその時…。
「──何をしている…大前田…」
突如響いた、冷たい声───。
そして、荒々しい殺気の霊圧。
「「っ……!!?」」
その場にいた隊士達の表情が一瞬で凍りつく。まるで生死を問われているような緊迫に満ちた空気。隊士達の顔は青ざめている。
大前田の額にも汗が滲んでいた。ごくりと喉奥で唾を呑み込む。大前田の中で危険信号が鳴っている。それは他の隊士達も皆、同じだった。
「……………」
ドクンッ
ドクンッ
心臓が急速に打つ中で、大前田は恐怖で顔を強張らせ、恐る恐る後ろを振り返る…。
「ひ、ぃ…!?」
言葉が喉でつっかえた。
「た…隊長…」
「大前田、貴様…」
「砕蜂…隊長!?」
他の隊士達も身体を震わせている。
「何をしているのかと問うている…」
先程まで罵詈雑言が飛び交い、馬鹿にした笑いが飛び交っていたというのに、“彼女”の登場でそれが一瞬で消え去った。
「(まるで獲物を狩りに来た猟師のようだ…)」
森の奥深く、悪さをする獲物達を狩る(制圧)べく攻撃力抜群の猟銃を構え、一匹残らず仕留め尽くす。まさにそういう状況だろう。
「いやあの!これは…!」
あたふたする大前田は流歌の前髪を離し、サッと距離を取った。その間に吹っ飛ばされた眼鏡を拾い上げて掛ける。
「随分楽しそうな事をしているな…?貴様達の愉快そうな笑い声と耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言が聞こえていたぞ?」
彼女は笑っているものの、その目は全く笑っておらず、ピキピキと青筋まで浮かんでいる。
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