第30章 ミガワリ ト レイコク
「はは、最高に良い聲で啼くじゃないか!」
目から血を流すワンダーワイスは腕を使って斬魄刀を引き抜こうとした。
「簡単に抜けると思うな。お前は私の敵だ。せっかく『悪』と取引した『望み』を邪魔しようとしたんだからな。此処で始末してやる」
「ガアアアア!!!」
「啼け!無様に啼いて死ね!」
「ゴロアアアァアアアア…ッ!!!!」
「ふふふ…あはははは!!」
決して手を緩めることはせず、眼球に突き刺したままの刀を更に強く抉る。
狂喜に歪んだ顔、色を無くした瞳、その姿はまるで───“サイコキラー”のようだ。
しばらくするとワンダーワイスが動かないことに気付き、狂気顔が一気に消えた。
「…なんだ、もう死んだのか。
暇潰しにもならなかったなァ」
眼球から刀を引き抜くと、ワンダーワイスの返り血が死覇装と顔に飛び散る。拭うこともせず、無表情でワンダーワイスを見下ろす。
「私の邪魔は誰にもさせない」
そして梨央の視線がワンダーワイスから一瞬外れた瞬間だった───。
「!!」
死んだと勝手に思い込んでいたワンダーワイスがピクリと反応し、触手が梨央に襲いかかる。
瞬時に気付き、咄嗟にその場から退けようとしたが、ワンダーワイスの触手が梨央の顔面を覆うように鷲掴み、そのまま身体を押され、背中から後ろの地面に叩きつけられた。
ドゴ!
「ハ〜〜……ハ〜〜……アアア……」
「ふむ…まだ息があったか。あのまま死んでくれた方が何かと有り難かったんだが…流石にそこまで空気は読めないか」
呆れ返り、溜息を吐いた。
「しかし女の子の顔面を掴んで地面に叩きつけるなんて解せないな。少しお灸を据えてやろう」
「ア〜〜」
「…ああ、忘れていた。そういえば言葉は削り取られてしまったんだったな」
「ォロア?」
「──迂闊に触れるな」
顔の横に両手を付き、身を丸めるようにして身体を屈める。そして両手にグッと力を入れ、身体が浮き上がると同時に屈めていた両足でワンダーワイスを思いきり蹴り上げた。
ゴッ!!
顎を蹴られ、海老反りになったワンダーワイスは宙を舞い、軽く吹っ飛び、ガシャン!!っと音を立てて地面に倒れ込んだ。
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