第30章 ミガワリ ト レイコク
「お主の今迄の戦い、その全てがこの為の隙となったのじゃ」
「部下達が斬られてる隙にこれを仕掛けていたという訳か…老獪な事だ」
「老獪結構。
お主には儂と共に炎熱地獄で死んで貰う」
山本の殺気が空気のようにピンと張りつめる。
「退がれ黒崎一護!!!」
「!」
「護廷十三隊でもないお主を巻き添えにする訳にはいかん」
「…ジイさん…?」
「…お主に一つ頼みがある」
「頼み?」
「梨央を護ってくれんかの」
その声は少し切なそうに聞こえる。
「百年前、此奴らの所為で梨央は身に覚えの無い罪を着せられ、その永き時間を監獄で過ごした」
「!」
「やっと…闇の中から光のある場所へと出られた子じゃ…頼めるかの」
「ああ、約束するよ」
「他の隊士達はいいのかい?このままでは全てこの炎熱地獄とやらの巻き添えだぞ」
「皆、覚悟はできておる。一死以て大悪を誅す。それこそが護廷十三隊の意気と知れ」
その瞬間、山本の背後に改造魂魄が現れる。
咄嗟に反応して振り向き様に刀を横薙ぎに振るが、改造魂魄によって刃を掴まれ、流刃若火が消えた。
「!?」
その隙を狙って改造魂魄が打撃を繰り出すと山本に命中し、勢いよく吹っ飛んだ。
「(…何故、流刃若火の炎が消えた───?)」
「教えようか。君の流刃若火は零番隊に次ぐ最強の斬魄刀、それは間違いは無い。まともに戦えば戦闘能力は私より上だろう。だか他の全ての能力を棄ててただ一点のみに特化させればその最強にも対抗できる」
山本は目を見開いた。
「彼、ワンダーワイスは唯一の改造魂魄。そして彼の帰刃(レスレクシオン)名は『滅火皇子(エスティンギル)』。君の流刃若火を封じる為だけに創られた破面だ」
「(炎が消えてゆく───……)」
「…見ての通りだ。滅火皇子の能力は流刃若火の炎を封じること。その能力の一つの為にワンダーワイスは言葉も知識も記憶も理性すら失った。全てと引き換えに手にした能力の前に君は最早為す術も持たない。さらばだ、山本元柳斎」
ワンダーワイスが山本に襲いかかる。
けれど山本は身動き一つせず、回避しようとはしない。
それを藍染は涼しい顔で見つめていた。
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