第30章 ミガワリ ト レイコク
「ハァ…ハァ…」
虚ろな双眸を宿す梨央の胸からは血が滞りなく流れている。
「…止血…はや、く…」
頭では分かっていても体が動かない。
「早…く…早く…早く…」
「“邪魔者は殺せばいいのに”」
ニヤリと口許を歪ませて笑う。
「っ………?」
梨央は目を見開いた。
自分の発言に驚いて固まる。
「っ!」
直後、苛立つように歯をギリッと噛みしめた。
ガサゴソと死覇装を漁り、青紫色の液体が入った小瓶を取り出す。
「使わないって…ハァハァ…決めてたん…だけどな…」
コルクの栓を開けて液体を飲み込む。
「ふぅ…これで少し楽になった」
空になった小瓶を捨て、ゆっくり起き上がる。
「さすが天才科学者。彼女の薬は万能だな。
刺された傷がもう塞がってる」
ふと、悲しい表情を浮かべる。
「…泣いてた」
血で汚れた手を見つめる。
「私のせいで…泣いてた」
ギュッと掌を握りしめた。
「さて…休んでる暇は無い」
気持ちを切り替えて、空を見上げた。
◇◆◇
その頃、山本は前線を切っていた。
「山本…総隊長…」
灼熱の炎が渦を巻き、天高く昇る。
「──ようやく総隊長のおでましか。だが遅過ぎたな、最早戦力に数えられる隊長は君一人だ。君が倒れれば護廷十三隊は文字通り崩壊する。機を逸したんだ。君は最早出て来るべきでは無かった」
「傲るなよ小童、貴様程度の力でこの儂が斬れると思うてか」
「斬れるなど思っていないさ。既に斬っている」
「ほざけ!!!」
刀を横薙ぎに振ったが、逆に藍染の手により腹を刺されてしまう。
だが山本は不敵に笑うと藍染の腕を掴んだ。
「藍染惣右介 捕らえたり」
「…面白いね。捕らえてどうする?君の掴んだその腕は本当に私の腕なのかい?」
「…眼で見て肌で感じるだけならそれもあろう。じゃが腹に刺さった斬魄刀の霊圧を読み違う事など無い…機を逸したとぬかしたな」
ギシ…
「機は今熟した」
その瞬間、二人を囲うようにして数本の炎の柱が現れた。
「!!!」
「『炎熱地獄』……元は零番隊副隊長の技じゃ」
「零番隊…」
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