第30章 ミガワリ ト レイコク
「…いつからや…」
「“いつから”…?面白い事を訊くね。君は知っているだろう?私の鏡花水月の能力は“完全催眠”。如何なる時でも五感全てを支配しあらゆる状況を錯覚させる事ができる」
藍染は淡々と語る。
「そして鏡花水月の能力を見ていない仁科梨央は雛森君が刺される事を知り、慌てて互いを入れ替えた。案の定、彼女は自らの命を顧みず、その身を犠牲にした。本当に憐れだよ」
「せやから一体いつから…鏡花水月を遣こうたかって訊いてんねん!!!」
「──ならばこちらも訊こう。一体いつから──“鏡花水月を遣っていないと錯覚していた”?」
思い当たる節があるのか、平子は目を見開かせてギリッと歯を噛みしめた。
日番谷の刃をその身に受け、死覇装が血色で染まる。苦しそうに呼吸を繰り返し、顔からは血の気が引いている。
頭が朦朧としていて焦点が定まっていない梨央を腕の中に抱く日番谷。
「…ハァ…ハァ…」
死覇装は梨央の返り血で汚れていた。
「…ひ…つ…がや…たい…ちょ…」
喋るのも苦しそうな梨央は放心している日番谷の名前を呼ぶ。その声は小さく、掠れていて聞き取りづらい。
彼女の美しい青い瞳も、少し色を失っている。
「あ…泣…かな…い…で…」
血が付いた震える手で日番谷の目元に触れる。
彼は泣いていた───。
放心したまま、梨央を見ている。
そんな日番谷の脳裏に焼き付いたのは…
梨央の死だった───。
「あああああああああああ!!!!」
怒り狂ったように叫んだ日番谷は我を忘れ、藍染に向かって突っ込んで行った。
「待……っ!」
ズキッ
「ぐっ!」
ほんの少し体を動かしただけで全身に激痛が襲う。
「…くそ…こんな…時に…」
ダメだ
怒りのままに藍染に立ち向かっても
逆にあの男の思うツボだ
「待て日番谷隊長!!」
「───隙だらけだ全て」
一気に四人の隊長格が斬られ、再び全員の顔に絶望と緊張が襲う。
「殺しはしない。君達程の力があればその傷でも意識を失う事すら困難だろう。見ているがいい、為す術も無く地に伏して、この戦いの行く末を」
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