第29章 バケモノ ト ジコギセイ
「何が言いてえ…」
「もしかしたら彼女は我々の知る彼女ではないのかもしれない」
意味深な発言に日番谷はグッと眉間に皺を寄せる。
「(あいつが俺達の知るあいつじゃない…?)」
『日番谷隊長』
脳裏に浮かんだのは優しい顔で笑う梨央だった。
「(いつからだったか…あいつがいるだけでこんなにも嬉しいと思い始めたのは…)」
優しい声も
優しい笑顔も
愛おしく感じたのは
いつからだっただろうか────。
「フッ」
思わず笑みが溢れる。
「(ああそうか…)」
日番谷は口許を緩めて小さく笑う。
「(俺はあいつのことが…)」
「彼女の過去を知って気がおかしくなったか」
「見溢んなよ」
「…何?」
「たとえあいつがどんな奴で過去に何があったとしても、俺はあいつを突き放すつもりはねえ。あいつの笑顔を守れるなら俺は剣を振り続けるまでだ。それに…」
梨央に視線を向けた日番谷は柔らかい笑みを浮かべる。
「あいつを傷付けて泣かせる奴は許さねえ」
藍染に視線を戻し、鋭い眼光で睨む。
「藍染、てめえはあいつを甘く見過ぎだぜ。仁科はてめえらの手に落ちるほど弱い女じゃねえんだよ」
「物好きだな。あんな化け物を好いているとはイカれている」
「あんな優しい奴を嫌うてめえの方がイカれてんだよ」
「…後悔するぞ」
「しねえよ」
「いいや、君は必ず後悔する。彼女が世界に存在することがどんな意味を持つのかを…ね」
笑みを浮かべたその時…
ドッ
「!」
「酷いな、話の途中だぞ京楽隊長」
「相手が男だとどうも聞き上手になれなくてね、聞いてるだけじゃヒマなのよ」
隙を狙って京楽が刀を横に振るが即座に反応した藍染に躱されてしまった。
「それに…あの子は化け物なんかじゃないよ」
普段ヘラヘラしている京楽もこの時は冷たい目で藍染を見ている。
「…卍解『大紅蓮氷輪丸』!!!!」
卍解した日番谷の体は氷の鎧で覆われる。
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