第29章 バケモノ ト ジコギセイ
ギィン!!
「──藍染、てめえ言ったな。憎悪無き刃は翼無き鷲だ。責任感で振る刀は自分には届かない───知らねえようだから教えてやるぜ」
日番谷は声を一段低くして言う。
「責任だけを刃に乗せて刀を振るのが隊長だ。憎しみだけで刀を振るのは薄汚れた暴力だ。隊長(おれたち)はそれを戦いとは呼ばねえ…藍染、やっぱりてめえは隊長の器じゃねえんだよ」
「───……面白いね。護廷十三隊の隊長の中で最も私に憎しみを持つ君の言葉とは思えないよ。君が構えたその剣に憎しみが無いとでも言うのかい?それとも雛森君が回復して現世に来た時点で君の憎しみは消えてしまったのかな」
相変わらず涼しい表情で余裕な態度を見せる藍染。彼の視線は遠くにいる梨央へと向けられる。
「…彼女は厄介だな」
その瞳には軽蔑の眼差しが浮かんでいる。
「…どういう意味だ?」
「かつて彼女は光の無い場所で鎖に繋がれ生かされていた。だが…その鎖は外れ、再び光の差す世界に戻って来てしまった」
日番谷は訝しげに藍染を睨み付ける。
「彼女は本当に愚かだ。己の命を顧みず、他人の為に犠牲を払う。“化け物”が人を救ったところで…何の価値も無い」
ピクッ
「化け物…だと?」
「時に日番谷隊長、彼女の“病気”を知っているか?」
「!病気…?」
「“特異的無恐怖症”という」
聞き慣れない言葉に日番谷は疑問を抱く。
「言葉だけでは解らないだろう。それは…“特定の恐怖だけ感じない”症状だよ」
「!」
「“痛みに対する恐怖”や“言葉に対する恐怖”。それらを全く感じない病気の一種だ。彼女の場合は…“死に対する恐怖を感じない”こと」
「!?」
「戦いに於いて加減を知らない。恐怖を感じない。だからこそ『特異的無恐怖症』を持つ者達は危険視され、利用される」
「…自分の死を…恐れない?」
「仁科梨央は自分が死ぬことを恐れない。だからこそ簡単に命を捨て、平気で自己犠牲を繰り返す。本当にイカれた病気だ」
藍染の口から語られた梨央の病気に日番谷は驚きを隠せず、言葉を失った。
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