第29章 バケモノ ト ジコギセイ
「あの事件以来、現世に身を潜めたとは聞いたけど…ほんと無事で安心した」
懐かしむように柔らかく目を細める。
「そうそう言い忘れるところだった」
「どうし、た…っ!?」
黒い笑みを浮かべる梨央に一護は体を恐縮させる。
嫌な汗が米神を伝う。
「キミ…さっき私の話を無視したろ?」
「いや…あれは…」
「しかも安い挑発に簡単に乗ったな?」
「怒って…んのか?」
「ははは、何を言うの。
怒るわけないじゃないか」
「(その笑顔が怖え…!!)」
「でも…言い訳があるなら聞こう」
「…ナイデス」
「ふーん…“ない”の?」
「…スミマセンデシタ。」
青い顔をして一護は目を逸らす。
「そんなに怯えなくてもいいのに」
「(じゃないと殴られるからだよ…!!)」
「キミの考えてること丸わかりだよ」
「嘘だろ!?」
「考えてることは顔に出さない方がいいな。
戦いに影響が出る恐れがある」
“でも…”と言葉を促して切ない表情を浮かべる。
「キミは死んでくれるなよ」
「!」
「私のように命の無駄遣いはするな。キミが犠牲になれば…悲しむ人達は大勢いるんだ」
「(この表情…どこかで…)」
その時、一護の脳裏に“少女”の顔が浮かぶ。
「(あいつも…こんな顔してたな…)」
「どうしたの?」
「オマエは…消えたりしないよな?」
その言葉に目を見開いた。
「………………」
ふと顔を俯かせる。
「…どうして…そんなことを訊く?」
俯かせた顔からは表情を読み取れない。
だが、周りの空気が少しピンと張りつめたのを一護は肌で感じた。
「梨央…?」
「キミは…“知ったのか”?」
その声は
とても冷たかった────。
一護は聞いたこともない梨央の声に思わず身を震わせた。
「どこまで知ってる?どういう経緯でその話に触れた?誰に訊いた?それとも…“誰かから訊かされた”のか?」
突然、雰囲気が豹変した梨央に一護は戸惑う。
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