第29章 バケモノ ト ジコギセイ
「副隊長を悲しませたいんか?」
「…………」
「少しは自分の命を優先せえ」
平子の言葉が深く突き刺さる。
「そうですね…もう少し自分の優先順位を考えます」
仲間のために平気で命を捨てる
それで誰かが助かるなら本望だと思ってる
自分の死に恐怖したことはない
どんな敵が現れようとも
どれほどの強さを秘めていようとも
私の力でねじ伏せればいいだけだ
それが原因で周りから
“身勝手”とか
“死にたがり”なんて言われる
違う 死にたいんじゃない
命を蔑ろにしてるつもりも…ない
私はただ…護りたいんだ
“たったひとつの望み”を叶えるために
許されない罪を犯した
その罪が禁忌だとわかっていても
どうしても…救いたかった
でもそのせいで“彼”が悲しむことになったとしても。
罪を犯した私を…“彼”は許さないだろう
それでも後悔はなかった
“彼”が大切だったから────。
世の中の誰かは言うだろう
『護れない命もある』と…。
それでもいい
それでも…護りたいんだ
助けを求める“誰かの命”を
このちっぽけな私の命なんかで
救えるのなら
私は護り抜きたい───。
「…我ながら矛盾してる」
自分の思いに嫌悪感を抱いて嘲笑う。
罪人のくせに誰かを護りたい
罪人の命で誰かを救いたい
本当に…矛盾してる───
「仁科」
自分で自分を責めていると声がした。
「怪我はないか?」
前だけを見据えたまま、日番谷は声をかける。
「…………っ」
優しい声がする
私を呼ぶ、あの人の声───……
「はい」
日番谷の声を聞いただけで今まで気を張っていたのが薄れて不思議と心が落ち着き始めていた。
泣きそうになるのを堪えて返事をすると小さく息を漏らして安堵した日番谷。
「そうか…よかった」
不思議だ
隊長の声を聞いただけで
こんなにも安心している自分がいる
心の底から嬉しいと感じてしまった
「まだ気を抜くなよ」
「はい…!」
そう言うと日番谷は藍染に突っ込んで行った。
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