第29章 バケモノ ト ジコギセイ
「だとしたら下らない事だ。間合いが意味を持つのは対等の力を持つ者同士の戦いだよ。私と君の間に間合いなど何の意味も無い。ほら、こうすれば今すぐにでも心臓に手が届きそうだ」
急に視界から消えた藍染は気付けば一護の目の前にいた。
「一つ訊こう旅禍の少年。君は何の為に私と戦う?私に何か憎しみでもあるのか?何も無い筈だ。君がここにいるという事は井上織姫は無事に戻ったという事だ。君の顔を見る限り、君の仲間も誰一人死んではいまい。その中で君は私を心の底から憎めるか?」
敵の懐に潜り込むのも
奴の専売特許だ
言葉巧みに操って
彼を追いつめる気か
「不可能だ。今の君は憎しみなど無くただ責任感のみで刀を振るっている。そんなものは私には届かない。憎しみ無き戦いは翼無き鷹だ。そんなもので何も護れはしない。無力な仲間の存在はただ、脚をへし折る為の重りにしかなりはしないのだ」
まずい!
藍染の言葉に呑まれそうになる一護に駆け寄り、手を伸ばす。
「呑まれるな黒崎一護」
「…狛村さん…!」
「挑発は奴の専売特許だ。
我を失えば命を失うぞ」
「…狛村隊長」
「…安心せい、虚圏に向かった隊長達が真っ先に貴公らを此方へ送った理由は解っておる」
すると二人を護るように多数の仲間達が現れた。
「貴公らに藍染の始解は見せさせん」
「俺達がてめえらを護って戦ってやる」
その言葉に一護は驚いた。
「俺達を護って戦う…!?」
これには私も驚きだ
“護る側”の私が“護られる側”なんて…
「何言ってんだよ…無茶だ…。
みんなボロボロじゃねえか…!」
「…何が無茶やねん。オマエ一人で戦わす方がよっぽど無茶やろ。一人でやらされたらハラの虫がおさまらへん奴がようさんおんねん。一人で背負うな厚かましい。これは俺ら全員の戦いや」
“全員の戦い”…
「オマエにも言うてんねんで、梨央」
「!」
「昔からオマエは無茶し過ぎなトコと自分の命を大事にせえへんトコがあるわ。自己犠牲ばっか平気で繰り返して自分が傷付くことをなんとも思うてへん。それで悲しむ奴がおってもお構いナシや」
「そんなことは…」
「死にたがりもええ加減にせえよ」
「!」
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