第29章 バケモノ ト ジコギセイ
「え?イヤいいよ、霊圧の消費を心配してくれてるなら大丈夫だか「黒崎さん、よろしければ私が前を走りましょうか」
言葉を遮った卯ノ花の浮かべた笑みに何か恐ろしいものを感じ取った一護は顔を引きつらせた。
「…はい…お願いします…すみませんでした…」
一護と交代した卯ノ花が前線を走ると綺麗な霊圧の道が出来る。
「うおお…隊長格の霊圧でやるとこんなキレイな道になんのか。差がありすぎてさすがにショックだ…」
「何をおっしゃるのです。霊圧では貴方も似たようなものですよ。見たところ怪我も癒えている様ですし万全であの有様ということは生来、霊圧が雑だから不向きなのでしょう」
「そ…そんなことねーよ!
霊圧が全快してりゃもうちょいイケるって!」
「あらまあ、寝言にしては目が開きすぎですよ」
「いっちーは国語の才能ないなー。冗談言うならもっとマシなのにしなよ」
「ちょっと!言うことキツくねえ!?つーか寝言でも冗談でもねえよ!!それと国語の才能は今関係ねえだろ!?見てくれよこれ!服の右ソデしかねえだろ?俺の卍解は死覇装も変化するんだけどさ、どうもこの“変化した死覇装も含めて”卍解なんだ」
「!“死覇装も含めて”…?」
「その証拠にさっき井上にキズ治してもらった時、死覇装はちょっとしか直んなかったんだ。いつもは井上の治療で死覇装も直るのになんでだろうって思って訊いてみたらどうも井上はキズを治すのは早いけど霊圧を回復させんのは遅いらしいんだ」
「…………」
「けどそん時は下でルキア達がやられてたから急いでて…結果霊圧は回復させねえまま来ちゃったんだよ。だから今の俺の霊圧はこんくらいってこと!なっ!全快なら───……」
「…黒崎さん、やはり前を走って下さい。今から移動を続けながら貴方の霊圧を限界まで回復させます」
「移動…って走りながら?そんなことができ…」
「できます。本来の鬼道による治療には多くの場合霊圧の回復を先に行います。それにより回復した内部霊圧と術者による外部霊圧とで肉体の回復を図るのです。肉体が回復している状態での霊圧の回復など雑作も無いこと。さあ黒崎さん、前へ」
今の霊圧が本当に限界値の半分なら───……
彼は本当に真の切り札になり得るかも知れません────……!
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