第28章 ザンゾウ ト カタワレ
「先の未来でキミは想像を超える程の絶望を経験するだろう。悲しみの果てに自分を傷付けることもあるだろう。でも…決して諦めないで」
「!」
「最後まで諦めなければ必ず希望は訪れる。キミには心強い仲間がいる。信頼できる友がいる。挫けそうになっても皆が支えてくれる。キミが歩みを止めても仲間が背中を押してくれる、だから絶対に大丈夫」
自信満々な笑みを浮かべる。
「自分の信じる道を行け」
「おう」
そして一護の周りを白い光が集まる。
「またね 黒崎一護くん」
「じゃあな、“梨央”」
「!」
口角を上げ、笑んだ一護は光に包まれ、消えた。
「…行っちゃったか」
少女は椅子に座り、天井を見上げる。
「最後まで“私”を名前で呼んでくれてたな」
指輪を悲しげな表情で見つめ、それを掌の中でギュッと握りしめる。
「もしかしたら…彼ならあの男に対抗できる唯一の希望になり得るかもしれない」
その位置から見える屋敷をジッと見つめる。
「どうして彼は“過去の残像”を見たんだろう…。あの屋敷で起こった事件を見る勇気と覚悟は彼にはまだない…きっとショックを受ける」
そうなれば…
「彼女のことを…拒絶してしまう」
たくさんの犠牲を払ってきた彼女
あの人を守る為に罪を犯した
その罪は決して許されるものじゃない
「…ごめんね」
それは誰に向けた言葉か──。
「あの男さえ現れなければ…あんな悲劇は起こらなかったのに」
ポタッと涙が机の上に落ちる。
「あの人は彼女の罪を許さないかもしれない」
「それでも彼女は守りたかった」
「だから…“あんなこと”を───!!」
くしゃりと泣き顔を歪め、悲しみに暮れる。
「彼女に後悔はなかった」
「罪悪感すらなかった」
「きっと彼女の未来は変わらない」
「それを覚悟で幸せを捨てた」
「彼を守るために───……」
少女は悲しげに眉を下げ、虚空を見つめる。
「ねぇ…キミの選んだ道は正しかったの?たった一つの『望み』の為に自分を犠牲にして…それであの人が喜ぶと思ってるの…?」
何も映さない少女の瞳から静かに涙が一粒、流れ落ちた…。
.