第28章 ザンゾウ ト カタワレ
「でも少女の助けを求める声に呼応するようにキミは完全な虚化を遂げ、暴走している」
「何だと!?」
「だから私は全てが駄目になってしまう前にキミの意識だけを此方側に喚び寄せた」
「そう…だったのか」
「安心して。私の力でキミを彼方の世界に帰す」
「本当か!」
少女はスッと手を差し伸べる。
「その為にはキミの協力が必要なんだ」
一護は差し出された手を見つめ、少女を見た。
「俺はどうすればいい?」
力強さを秘めた表情に少女は笑む。
「ありがとう」
一護の手に自分の手を重ね、目を閉じる。
「キミはこうしてるだけでいい。
あとは…私の力で虚化の進行を止める」
ポゥ…ッ
「!」
少女を中心に周囲が光り始めた。
「大丈夫、失敗はしない。キミを元の世界に帰すのが私の仕事。キミはこんな場所に来てはいけない」
「俺が元の世界に戻れたとして…オマエはずっと此処にいるのか?」
「!」
「こんな…寂しげな場所に独りで…」
「言ったでしょう。“私”は彼女が暴走した時のストッパーだって。寂しいという思いは必要ないんだ」
「……………」
「“私”の役目は、この世界に留まり、彼女が暴走しないように見守る。そして万が一、暴走してしまった時の『保険』として“私”の力を使い、彼女を鎮める為の制御装置でもある」
だから余計な感情は必要ない───ハッキリと告げる少女に迷いはないようにも思えた。
「ありがとう。こんな私の心配をしてくれて。現世にはキミのような人間もいるんだね」
嬉しげに目を緩め、そう言った。
「さあ、完成だ」
重ねている手を放し、指を鳴らす。
パチンッ
「!?」
一護の足元に円形の光が現れた。
「現実世界に戻れるよ」
その声は優しかった。
「“梨央”をよろしく頼む。あの子は強いけど泣き虫で寂しがりだから、みんなで守ってあげて」
ふわりと笑んだ顔は梨央とそっくりだ。
「オマエ、笑った方がいいな」
「誰かに褒められるのは嬉しいね」
恥ずかしげに少女は微笑んだ。
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