第28章 ザンゾウ ト カタワレ
「さっきの声、何だったんだ?」
《こっちに来て。》
「!」
頭の中に響く声に一護は驚いた。
《森を抜けた先に塔があるでしょう?》
《そこまで来て。》
「誰だあんた」
《その答えを教えてあげる。》
「……………」
どこか意地の悪そうな言い方に顔をしかめる。正体も分からない相手の言うことに耳を傾ける必要はない──と警戒するところだが…。
「(森を抜けた先…)」
その声の主の言う通り、森林が生い茂る奥に、灰色の塔が聳え立っているのが見える。
「(相手の思い通りに動くのは癪だが…ここがどんな世界かも分からねーうちは、素直に従った方が良さそうだな。)」
森の小道を抜けると塔の前に着いた。
「こっちもバカでけぇ…」
《階段を登って上まで来て。》
《そうしたら“答え合わせ”をしよう。》
「……………」
入り口から顔を覗かせれば、中は薄暗く、足元を照らす光すら無い。その不気味さに一護は怖さを感じる。
「暗くて足元が見えねぇ…。どうやって登んだ…明かりくらい付けとけよ」
ぶつくさと文句を言いながら階段を慎重に登り始める。警戒心は放ったまま、上に登って行くと途中で小窓があり、そこからは太陽の光が射し込み、薄暗い階段を照らしていた。
「さっきの屋敷、あんなに遠かったのか…。待てよ。あの屋敷とこの塔の距離はそんなに離れてねえ気が…」
考えても仕方ないので一護は気にせず、階段を登り続ける。すると出口が見え、一護はホッと安堵の表情を浮かべた。
そして出口を出た一護は、目の前に広がる光景に言葉を失う──。
「どう…なってんだ?塔の中に…庭?」
鳥籠状に造られた庭園に一護は瞠目する。
「いや…待て待て待て。明らかにおかしいだろ。まず広さが全然違え。どうやって塔の中にこんな広い場所作れんだよ」
塔の造りから考えて鳥籠状に造るのはどう考えても無理がある。一護は手を額に当て、激しい困惑の色を顔に浮かべた。
「(ヤバイ…マジで頭おかしくなりそう。)」
地面は緑が生え、花壇には色とりどりの花々が植えられており、窓硝子から差し込む太陽の光が庭園を暖かく包み込んでいる。
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