第28章 ザンゾウ ト カタワレ
その頃、意識だけが別の場所に飛ばされた一護が目を覚ますと、そこは屋敷の中だった。
「何処だ…ここ?」
困惑気味に辺りを見回す。
壁には幾つもの肖像画が飾られ、大きな窓が幾つも並んでいる。見るからに其処はお金持ちの雰囲気が漂っていた。
「(とりあえず外に出ねえと…)」
呆気に取られている一護が足を踏み出そうとした時、奥の階段から誰かが登ってきた。
「(まずい!誰か来る!)」
慌て出す一護だが勝手に部屋の中に隠れるわけにもいかず、その場でオロオロしてしまう。
すると険しい顔の女性がズンズンと一護の方を見ながら歩いてくる。いや…正確には怖い顔で睨んでいる、という感じだった。
「す、すみませんでした!気付いたらここにいて!だから不法侵入とかじゃないんで…っ」
「母様!待って…!」
「!」
泣きそうな声が聞こえた。よく見れば、険しい表情の女性は小さな子供の手を引きながら早足で歩いている。
そして驚くことに、二人は一護の横をすり抜けてしまった。まるで一護の姿など最初から見えていないかのように。
「(え?)」
驚いた一護が振り返ると、女性は扉を開け、その少女を強引に押し入れると、部屋に閉じ込めてしまう。
部屋からは泣き声が聞こえる。女性は扉が開かないようにドアノブを手で押さえていた。
「(俺の姿が見えてないのか…?)」
二人は一護の存在に全く気付かず、何やら会話を続けている。女性が少女に何かを言い聞かせているかのようにも聞こえるが、一護がいる場所からでは距離が少し空いていて、聞き取ることはできない。
「(そもそも誰だ?)」
意識だけが在るせいか、女性の顔も子供の顔も、モヤが掛かったようにハッキリとは見えなかった。
「……お腹を空かせた…に……来たんだ。だから…をする…ならない」
「(よく聞こえねえな…。)」
すると子供が返事をしたのだろう、険しかった女性の表情が緩やかになった。
ドアノブから手を離し、扉を開ければ、部屋に閉じ込められた少女が勢いよく抱きついた。その顔は涙で濡れていたが、女性に抱きしめられてとても嬉しそうだった。
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