第26章 ヌレギヌ ト サイカ
「自分が死ぬことを恐怖に感じないからこそ、貴様は簡単に命を捨てられる。誰かの為なら尚更その症状を理由に命さえも犠牲にする。今まで貴様が命を粗末にしてきた理由がそれだ」
「監視役さんさぁ…頭が良すぎるのも問題だよ」
「!」
ピンと張りつめた空気が漂う。
「たしかに…監視役さんの言う通り、私の症状は例外だよ。そして一番厄介で自分でも制御が難しい。自分が死ぬことを恐れてないから簡単に命を犠牲にできる。こんな病気が知れたらそれこそ私は周りから疎まれて嫌われるだろうな。それでも…何かを護れずに死ぬよりはマシだ」
「(自分の死に対して恐怖を感じられない病気…。この少女は本当に自分の命をなんとも思っていないのだろう。だから平気で命を捨てられる…)」
「内緒にしてね」
「!」
「ごく一部の人しか知らないからさ」
「…………」
監視役の男は再び資料に目を通す。
「本当に困った病気だよ」
薄笑いを浮かべる。
「ねぇ監視役さん、頼みがあるの」
「外部との接触は禁止だ」
「そこをなんとか」
「聞けん」
「仲間に…何も告げずに来たんだ。きっと私が戻らなくて心配してる。だから伝言を総隊長に届けて欲しい」
「…………………」
「頼むよ」
「…今回限りだ」
「もちろん」
梨央はニコリと笑った。
「ああそれと…」
「なんだ」
「今日からよろしくね」
「…………………」
監視役の男は無言で席を立つと部屋を出て行った。
「…この選択が正しいのかは解らない」
「でも…彼らを守れたなら…それでいい」
「彼らの生きた証さえ…守れたら…」
だがすぐに後悔の色を表情に浮かべる。
「…私が間に合っていれば…」
「すぐに罠だと気付いていれば」
「…こんな…ことには…」
キツく拳を握り締める。
「結局…総隊長の言う通りになっちゃったな…」
「亀裂が入って…バラバラ…」
「ごめん…みんな…」
「身勝手な私を…許して…」
その瞳には悲しみの色が宿っている。
「───ごめんね…蒼生くん…」
小さな呟きだけが牢獄に残った…。
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