第25章 フリコ ト カコ
「お孫様も大変ですな」
「白哉もあのすぐ熱くなる癖が抜ければ一皮むけるんじゃがのう…」
「四楓院隊長も大人気ない所があるのでお互い様ですよ。ほんと…あの人には困ったものです」
悔しそうに夜一を追いかける白哉。
からかいながら楽しそうに逃げる夜一。
そんな二人を見て梨央は微笑ましく思った。
◇◆◇
【百一年前】
「あァアああああ!!!!!」
浦原喜助の隊長就任から九年後
「…成程、一般魂魄では原型を留めないか…」
「如何なさいますか?実験を中止されますか?」
「いや、もうしばらくこれを続けよう」
◇◆◇
「やっと解放された…」
疲労感が残る体で外に出る。
「だから書類整理って苦手なんだよ」
小さく舌打ちをする。
彼女は先程まで鬼の監視の下、今まで溜めた書類の整理に追われていた。鬼は言わずとも判ると思うが、彼女が一番恐れたのは、その近くで温厚な笑みを浮かべて自分の仕事をしていた彼だ。
何が怖いって、優しいのに無自覚なところだ。先程も紅茶を運んできてくれた。だが周りから見ればそれは脅しているようにも捉えられるのだ。“この紅茶飲んで頑張ってね。サボったらどうなるかわかってるよね…?”とでも訴えているかのような笑み。だが本人には全然そんなつもりはなくて、彼女が疲れていると思って紅茶を運んだだけ。
普段は温厚でとても優しい彼だが、一番怒らせてはいけないタイプなのだ。決して声を荒げることはないが、その分、彼の発する言葉には鋭さを感じることもある。否、毒を吐く場合もある。そして優しい笑みを浮かべているのにも関わらず、彼のその笑みには、なぜか逆らえないのだ。
「逆らっちゃいけない気がするんだよな…」
ハァ…と溜息を吐いて空を見上げる。
すると前方から人影が歩いて来るのが見えて立ち止まる。
向こうも梨央に気付いてその足を止めた。
「おはよう」
ニコッと笑って挨拶をすれば、彼は驚いた顔で梨央を見ている。
「幽霊じゃないから安心したまえ」
「え?」
“幽霊”
そのような目で彼は彼女を見ていた。
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