第2章 悪夢のはじまり
【零番隊舎】
「こんなもんか」
翌日、元の姿に戻った梨央は調理室で仲間の為に朝食の準備をしていた。
白米と味噌汁、焼き魚と沢庵の漬物。
どれも出来立てで良い香りを匂わせている。
「彼らに朝食を作るのも久々だな」
監獄に収監される前は、毎日のように梨央が彼らの朝食を作っていた。
「味が落ちてなければいいけど…」
苦笑すると、くいくいっと引っ張られ、足元に視線を落とす。そこには霙の実験で人形に魂を与えられたリキュールが立っていた。
「もしかして…手伝ってくれるの?」
お盆を持ったリキュールは頷く。
「キミは働き者で助かるよ。それじゃあ…落とさないように気をつけるんだよ?」
ビシッと敬礼ポーズをしたリキュールのお盆に焼き魚と沢庵の漬物を乗せる。
「ご飯とお味噌汁は私が持って行くから大丈夫。キミはそれを応接室にあるテーブルに運んでくれ」
頼んだよ、と言うとリキュールはそろりそろりと足を進め、バランスを取りながら応接室まで朝食を運んで行った。
「後はデザートも出して終わりか…」
冷蔵庫からプリンを出す。ふわふわな生クリームにミントがちょんと添えられている。このプリンも梨央の手作りだ。
ザワッ
「!」
その時、複数の霊圧がこちらに向かっていることに気付く。その中の一つが荒々しく乱れていて、心当たりのある梨央は苦笑した。
隊舎内の廊下を早歩きで進む人物。先頭にいるその人物の不機嫌オーラに蒼生は呆れ顔を浮かべ声を投げかける。
「そんなに急ぐなよ」
「高峰は腹立たないの!?」
「今回はな」
「何それ!!自分の妹が犯人扱いされたのよ!?心配じゃないの!?」
「落ち着けって」
「落ち着けるわけないでしょ!!」
立ち止まり、ぐわっと勢い良く首だけを後ろに向ける赤髪の少女が物凄い剣幕で怒り散らす。
「だいたい何であんたは冷静なのよ!!いつも通り無愛想な顔して!!」
「あーもーうっせえ!
無愛想なのは元からだ!」
「隊長が殺人犯ってどういう事よ!?」
「まーまー詩調チャン冷静に…」
「あんたは黙ってなさい羽虫!!」
「相変わらず酷いっス…」
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