第2章 悪夢のはじまり
「(きっと真実を伝えても、信じてくれないだろう。)」
少しだけ『あの人』から聞いていた
“物事を冷静に見渡せる有能な部下がいる”
「(…どこが『物事を冷静に見渡せる』んだ。)」
残念ながら彼は有能ではない
その目は“真実を隠した”。
一方的に私を犯人だと決めつけ
“偽物の真実”を簡単に受け入れた
彼は天才ではない
嘘も見抜けない
無能な死神だ───……
「(まるであの忌々しい連中と同じだな…)」
流歌は嘲笑を溢し、日番谷を侮蔑する。そして弁解の末、どうでもよくなった流歌は早々に話を切り上げて、その場から立ち去ろうとした。
「話は終わりでよろしいですか?」
「何?」
「これ以上の会話は無駄だと判断しました。結局のところ、隊長は僕を信じていない。だからこそ、無意味な質問で僕に罪を認めさせようとしている」
「そんなつもりはない」
「いいえ。あなたの言いたいことは全てお見通しです。僕は絶対に罪を認めません。あの女のせいで迷惑してるのはこっちなんですから」
次第に苛立ちが増し、また掌をギュッと握りしめ皮膚に爪を立てようとして思い留まる。
「例え自白剤を使われたとしても、僕の口から出るのは“真実”のみです。やってもいない罪を認めるなんて…余程の事がないと背負えませんよ」
何を思い出したのか、ふと流歌の眼が悲しそうに伏せられる。だがすぐに消え、どこか馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
「そうそう、少し小耳に挟んだのですが日番谷隊長、あなたは天才だとお聞きしました」
「!」
「素晴らしい人材ですね。あなたこそまさに有能な死神です。隊長になるに相応しい」
「…何が言いてぇ?」
「でも天才と比喩されるあなたでも真実を見抜く力もないとは残念です。ただ日が浅いというだけで信じようとしない」
「……………」
「そして自分の部下の過ちにさえ気付かない。正直、失望しました。それでよく人の上に立っていられますね。非常に不愉快です」
笑んだ表情から一瞬で怖い表情に変わる。
「お前みたいな奴がいるとは…がっかりだ。神崎──俺はお前を軽蔑する。」
その碧緑色の瞳に鋭さが増した。
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