第17章 ゲンセ ト カンチガイ
【十番隊舎】
「仁科です。失礼します」
スッと横に引いて襖を開ける。机で仕事していた日番谷は目を通していた書類から顔を上げて梨央を見ると真剣な表情を崩し、柔らかな笑みを浮かべた。
「(わ。優しい顔。)」
不覚にもトキメいてしまった。
「どうした?」
「書類を届けに来ました」
「隊長自ら届けに来るとは良い心掛けだな」
机に歩み寄り、書類を渡す。
「乱菊さんは席を外されているんですか?」
「知らん。」
「え?」
「気付いてたら消えてた」
「それはどういう…」
「仕事放り出してどっかでサボってんだろ」
眉を顰め、険しい表情を見せる日番谷からゴゴゴ…っと云う黒いオーラが滲み出ている。
「ったくアイツは副官としての自覚が…」
「(もしかして乱菊さんも常習犯?)」
乱菊の席には明らかに一日で終わらせるには無理であろうと思われる書類の山が置かれていた。彼女の性格上、あの書類を黙々とこなす事は苦で現実逃避しているのだろう。
「いないんじゃ仕方ないですね」
「松本に用か?」
「大した用じゃないんです。明日から現世に行く事になったのでその報告をと思っただけですから」
「現世に?」
「はい」
「随分と急だな」
「私も思います」
「…いつ帰って来るんだ?」
「帰還の目処が立たないので無期限だそうです」
「そうか…。無期限…」
「隊長?どうかしました?」
「お前はアレだな」
「?」
「頑張り過ぎる所があるからな」
「はい。頑張ります」
「ぜってぇ意味判ってねえだろ」
「?」
「…ハァ。頑張るのは良いが程々にしとけ。お前は頑張り過ぎて無茶する所があるからな」
「ふふ」
「!」
「あ、笑ってすみません。ただ…高峰副隊長と同じこと言うんだって思って」
小さく笑う梨央。
「一つ…聞いていいか?」
「はい。答えられる範囲であれば」
「…………」
日番谷は一度口を開きかけるも、言葉を詰まらせるように黙り込む。それを見た梨央は不思議そうな顔で日番谷を見つめる。
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