第13章 特別隊首会
一番隊舎の近くまで散歩しに歩いて来た流歌は立ち止まり、空を見上げる。
「……………」
今日は快晴、風の音が木々を揺らす。
「(“あの日”も…こんな空の青さだったっけ…)」
昔の記憶と今日の空の青さが重なり、流歌は悲しそうな瞳を宿した。
「一人黄昏ちゃって馬鹿みたい」
その声に顔をしかめた流歌は一呼吸置いてから後ろを振り返る。
「似合わないことすんじゃないわよ」
反吐が出る。そう言って桃香は腕を組み、流歌を見下ろした。
「(相変わらず香水の匂いがキツい…)」
離れているにも関わらず、桃香の身体という身体からキツい香水の匂いがした。
「アンタは地獄で黄昏てる方がお似合いよ」
「貴女は地獄に堕ちてもその性悪は一生直りませんね」
互いが互いを罵り合う。
「馬鹿言わないで。これから地獄に堕ちるのはアンタでしょ。そこで恐怖を味わうと良いわ」
「いいえ、地獄に堕ちるのは貴女です。貴女は其処で恐怖に震えながら罪の重さを知るんですよ」
「…ほんとムカつく男ね」
桃香は余裕な態度を浮かべる流歌に苛立ちを募らせる。
「そろそろ限界なんじゃない?」
「何がです?」
「身体も精神もボロボロで疲れたでしょう。あんな目に遭ったんだから当然よね、可哀想に…。アタシに逆らうから後悔するのよ」
善人面した桃香はわざと同情したフリをする。その表情に吐き気がした。
「アンタがアタシの手を取らないから。アタシの告白を断ったりするから。アタシを…馬鹿にして、侮辱するから。だから当然の罰なの。わかるでしょ?」
「(全部本音だし、キミの気持ちなんか理解したくないな…)」
「だから…今なら許してあげる」
近付いて来た桃香がスッと手を差し伸べる。
「アタシに恥を欠かせた事も、楯突いて逆らった事も、侮辱した事も、アンタの全てを許すわ」
「……………」
「さぁ、手を取りなさい」
その言い方はまるで女王様が命令するみたいに、傲慢な態度だった。
「(彼女は私の全てを許そうだなんて、これっぽっちも思っていない。彼女の目を見れば一目でわかる。)」
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