第10章 『あなたの背中。』木兎光太郎
『ここはこうするんだよ?』
数学の公式をノートの端に書き込む。
それでも、うーん…と唸り、頭をがりがり搔きむしる木兎くん。
『じゃあ…これ、好きなもので考えてみようか?』
「好きなもの?」
『そう。その方が楽しい…かな?』
そう言い目線を上げ、木兎くんを見ると驚いたような顔。そして晴れやかな笑顔。
「夏乃すげー!」
とくんっ
あの日から背中を見るだけで、ときめいていた私の心臓。
私だけに向けてくれている笑顔だけで私の胸は早鐘を打つように鼓動を打つ。
きっと顔は真っ赤だろうな。
赤面症…なんとかならないかな。
そう思いながら目線を下に下げる。
自分の影がノートにかかる。
それにもう1つの影がかかったのに気づいたのと私の顔が正面を向かされたのはほぼ同時。
「どした?顔、真っ赤だぞ⁈」
心配そうに覗き込むきらきら、お星様みたいな瞳。
両頬を包むごつごつした男らしい手。
意識した途端、かああっと頬に熱が集まる。
「うわっ!もっと赤くなった!熱か⁈具合悪いか⁈」
『ちっ!ちがっ…ほっぺ…離してぇ…』
男子に免疫もなくさらに好きな人に触れられているとなれば、私の頭はショート寸前。
「ごっごめん!」
がたんがたんっと椅子が揺れる音と同時にぱっと木兎くんの手が離れる。
「つい、いつも弟にやってるみてーにしちまった!びっくりさせたよな。」
わたわたと慌てている木兎くん。
いつもの自信満々な顔は今はおろおろどうしよう。そんな困り顔。
『あの…私、人と話すのが苦手で…すぐ顔が真っ赤になっちゃうの…』
だから…ごめんね?
そう謝れば、きょとんとした顔。
「謝る必要なくね?だってそれって個性じゃん!」
そう言い笑う木兎くん。
嗚呼、あなたは私の欠点までも個性にしてくれるんだね。
『そだね。じゃあ、勉強続けようか。』
ありがとう、木兎くん。