第7章 ぽにーてーる☆せったーず。
及川徹の場合。
pm1:20
「夏乃ちゃーん!」
偶然通りかかった3年の教室棟。
声の聞こえた方を向けば、男子バレー部の先輩たちの中に…いた。
『なんですか?及川先輩。』
廊下側の席に固まる先輩たちに近づけば及川先輩はばっちこーんとウインクを飛ばす。
「うちのマネちゃんは今日も可愛いね☆」
『それだけですか?それだけなら失礼します。』
そう言ってぺこりとお辞儀をすれば他の先輩方がおうだのじゃあななど返事をする中、及川先輩だけが「夏乃ちゃんが冷たーい!」なんて言ってる。
「うるせーんだよ!クソ川!」
あ、岩泉先輩に蹴られた。
花巻先輩と松川先輩がそれを見て吹き出してる。
「なんか用事あんだろ?コイツはほっといていいからもう行け?」
時間ねーべ?って岩泉先輩に言われて時計を見ると授業開始まで時間はあとわずか。
『わ…すいません。じゃあ放課後。』
挨拶をして廊下を歩き出せばなぜか追いかけてくる及川先輩。
『なんですか…?』
そういえば横から持っていたノートをするりと奪われる。
「手伝うよ?重いでしょ?」
そういい、ススッと先に進んでいく。
『いや、私…』
持ちますの言葉にかぶるように先輩はノートを運ぶ教室を聞くからついつい答えてしまった。
ーーーーーー
「はい、完了。」
『ありがとうございます。』
ノートは科学準備室に運ばれた。
あいにく準備室は人が出払っており、今は及川先輩と2人きり。
『じゃあ私、教室に戻りますね?』
「待って…?」
肩を掴まれ、とっさに先輩の方を振り向く。
「今日、ポニーテールなんだね?」
『ああ、さっき体育だったんです。友達にやってもらってそのままで。』
「似合ってる…可愛いよ…」
いつもの冗談めかした感じとは全然違う。
『冗談…やめてください。』
手を振り払い、出口に向かって歩く。
ふわり
男物の制汗剤。
シャボンの香りが鼻をくすぐった。
いつのまにか、背中には熱。
ぎゅっと力強い腕に抱きしめられる。
うなじにかかる毛先がくすぐったくて思わず身じろぐ。
「夏乃ちゃん…俺さ……」
ふわり、ふわりとシャボンが舞って
私のココロでぱちんと割れた。
恋を自覚するまで
あともう少し。
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