第35章 『残業終わりの甘い誘惑 前編』 黒尾鉄朗
「黒尾…かちょ…に……」
そう口に出せば、黒尾課長がにやりと笑い机の向こう側から立ち上がる。
「じゃあさ、それ、頂戴?」
私の横にしゃがみ込んだ黒尾課長。
自らの唇を指差しにやりと笑う。
「でも…封開けちゃって…中身も減ってるし…」
熱っぽく刺さる彼の視線から少しだけ逃れ、言い訳をすると、課長はそれすらも笑う。
「俺はそれがいいの。今すぐ頂戴?」
目を細めてにやりと笑う課長の視線に耐えられなくなり、私は先程ラッピングを開けてしまったチョコレートの箱を開けた。
「一個、食べちゃいましたが。」
「ん、さんきゅ。」
私が食べたものと違う味のチョコレートをひとつ取り出し食べる。
「ん、苦ぇ…」
課長が苦味で顔をしかめたのを見て、焦る。
苦いのが少し苦手な課長。
甘めのチョコを探し差し出そうとすれば、ひょいとそれを持っていかれ、私の口に入る。
「ひゃっ!かちょ…」
「口直しさせろ。」
口の中に広がる甘さと苦さ。
そして柔らかな唇の感触。
舌の上に乗ったチョコレートを転がすように舌が動く。
逃げるように舌を引けば、課長の手がうなじに添えられ引き寄せられ、舌を絡められる。
甘い。
甘さで脳が痺れそうだ。
口の端から溢れる小さな喘ぎが、課長にやめてほしくないと懇願する。
だからなのか、チョコレートがなくなっても課長は唇を離さない。
舌に残った甘さを堪能するように何度も舌を絡めた。