第33章 『秘密、ひみつ。』赤葦京治 R18
がらり。
気づいた時にはもう遅かった。
逃げる間も無く彼と目があった。
彼の瞳が私を向く。
そして、にやり、と口端が上がった。
「おいで?」
小さな声で呼ばれ、手を伸ばされる。
恐る恐る自らも伸ばせばぎゅっとその手を掴まれそのまま私は音楽室を抜け出した。
抜け出した後、向かったのはバレー部の部室。
男子だけだから汚いのかな、と思ったけれどそんなこともない。
「ねえ、何年生?名前は?」
「えっ…と、1年4組、椎名夏乃…です。」
「ああ、尾長と同じクラスか…」
尾長くん。あの面長な顔で身長がすごく高い人か。
「あの…先生と、先輩は…恋人…なんですか?」
そう問えば、先輩は顔を崩して笑い始めた。
そんなに笑うところがあっただろうか。
「君…夏乃だっけ?面白いこと言うね。
あの人はただの遊び。今切ってきたからそれさえもなくなった。」
え、遊び?付き合ったりしないであんなことするの?
「不潔、とか思った?
でもそれを覗いてた夏乃も似たようなものだよ。」
訳がわからない。
理解しようとするけれど頭が考えを拒否する。
「ちなみにどうして恋人だと思った?」
そう問われ、ふと思い出す香り。
「香水が…同じ…」
「ああ、あの人の香水キツイからセックスした時に服に移ったんだと思う。」
セックス
普通の男子高校生だったらからかい混じりだったりでしか聞かない言葉。
それがさらりと口から発せられたことが、なぜかとても恥ずかしくてふいと目線をそらした。
「それだけで顔、真っ赤にさせるなんてさ、お前処女だろ。」
くすり
吐息混じりに笑われ、余計に顔が赤くなる。
「っ!不特定多数の人とするよりはマシです!」
そう言い切ってしまった後、は、と気づく。
場の空気が変わった。