第28章 『朧月の夜。』 嶋田誠 R18
「みなさーん。夏乃ちゃんのこといじめないでくださいよー。」
私とママさんズの背後。
やけに陽気な嶋田さんの声がして振り返れば、酒に酔い真っ赤な顔をした嶋田さんがにへらと笑っていた。
「ごめん、口開かせようと飲ませたら酔っ払っちゃって…」
追いかけてきた社員の皆様は苦笑い。
そんな会話がなされている中、私はママさんズの中心から嶋田さんに引き抜かれ、直ぐ横の壁際に引っ張られていく。
「夏乃ちゃんは俺のなんですから。」
嶋田さんがあぐらをかいて座った足の上に無理やり座らされ、後ろからぎゅっと抱きしめられる。
これ、嶋田さんの家に行くと高確率でやってもらえる抱っこ。
いつもは嬉しいけれど…
「嶋田さん…恥ずかしい…」
周りの目線が恥ずかしくて弱々しく抗議すれば、嶋田さんはさらにぎゅっと抱きしめ、耳元で囁いた。
「何が恥ずかしい?」
くすり、大人の余裕で笑う嶋田さん。
2人きりの時ならいいけれど…
目の前には頬を染め、わざとらしく目をそらす社員さん達、そして、楽しそうにこちらを見るパートのママさんズ。
「みなさん…みてます…」
「いいじゃん…」
吐息にはお酒が混じり、体温はいつもより高い。
服から露出した腕がふれあい、余計に心臓が跳ねる。
ふいにとん、と背中に重さが加わる。
甘えられているのか。
お腹に回る手も先ほどより力が増す。
「…嶋田さん…?嶋田さん?」
背中の重みが増す。
まるで体重をかけられているように。
そして耳元ではすうすうと規則正しい寝息。
「すいません…誰か…助けてください…」
私の背中に体重をかけ、嶋田さんは寝てしまっているらしい。
どんどん体重が背中にかかって私、潰れそう…
それに気づいた社員さんが私の背中から嶋田さんを剥がそうとするけれど、がっちりと私をつかんだ腕は全く離れない。
最終的に、部屋の角まで引っ張ってもらい、嶋田さんに壁に寄りかかってもらうことでなんとか解決した。
パートのママさんズが気を使って飲み物や食べ物を持ってきてくれるんだけれど、それがかえって申し訳ないような恥ずかしいような…
私は恥ずかしさに耐えながら、残り30分となった飲み会を過ごした。