第26章 『貴方のことしか見えません。』 月島明光 R15
『あの…』
振り返った女性は不審顔。固い声で私に問う。
「何かしら。」
『あの、私、月島明光さんの知り合いで…
家の住所もわかるので、同乗しても、いい…ですか…?』
そう聞けば女性はさらに不審な顔を私に向ける。
「失礼だけど、貴女、高校生?こんな時間まで何してたの。」
『バイトを…いつもはもっと早く上がるんですが今日は買い物をしてたら遅くなって…』
「こんな時間までバイトって…親御さん、心配してるでしょう。大人の事情に首突っ込んでないで早く帰りなさい。」
冷たい言葉であしらわれるかのように言われる言葉たち。
”大人の事情”とか”子供”とか、そんな括りで縛られるのが苦しい。
明光さんは大人で私は子供なんだと突きつけられているようで泣きたくなった。
『親、いません。』
気づけばそう呟いていた。
『家族は祖母だけです。だからバイトしてるんです。この時間まで働かないと生活ができないんです。いつもは事情を知っている明光さんにバイトの後迎えに来てもらってます。明光さんのスマホの番号も家の場所も実家の場所も知ってます。それでも信用していただけませんか。』
苦しくて、苦しくて、ただ吐き出した。
『生徒手帳を見れば名前も学校もわかりますよね。
私だって証明になりますよね。
ちょっと待ってください。』
鞄から生徒手帳を出そうと鞄を探ればその手を掴まれた。
綺麗なネイルが施された手が私の手を止めた。
「事情も知らないでごめんなさい。辛いことを言わせてしまったわね。」
そう言うと、女性はとんと私の背中を押しタクシーに座らせる。
「気をつけて帰って?貴女とはまた話がしたいわ。今度はゆっくりお話しましょう?」
そう言って私に微笑んだ後、歩き姿の素敵な女性は駅の方へと消えていった。
「お姉ちゃん、行き先聞いてもいいかい?」
ぱたん、と閉まったタクシーの扉で我に返った私。
長らく待たせてしまったタクシーの運転手さんに目的地の住所を言えば、タクシーはやっと前進を始めた。