第25章 『きらきらの貴方。 』 月島明光
練習が終わった後、ブラウニーとは別に焼いていたココア味のカップケーキの入った袋を持ち、玄関脇のベンチで月島さんを待っていた。
ざわり、ざわりと騒がしくなる廊下。
みんなと話はできるようになったけれど、さっきみんなに配った物とは別の物を月島さんに渡したら、好意を持っていることが丸わかり。
それを悟られるのは恥ずかしいので、私は咄嗟に物陰に隠れた。
話題はやっぱりバレンタインの話。
カノジョにもらった、とか、職場の義理しかもらってない、とか。
そんな話題の中にはやっぱり私の話もあって…
「夏乃ちゃんのブラウニー…だっけ?あれ美味かったよなー!」
「普段作ってくれる弁当もうまいしいい嫁になりそうだよなー。」
「でもさ、夏乃ちゃんが自分の嫁になっても兄貴が赤井沢さんだぜ。なかなかに厳しくないか?なあ、月島。」
どくん。心臓が大きく跳ねた。
聞きたい。
聞きたくない。
そんな気持ちが浮かんで消えて。
聞かないように逃げたくても足が張り付いたように動かない。
耳を塞ごうにも、手が震えて耳を塞ぐことができない。
「うん…赤井沢さんは…手強いよな…」
息が、止まった。
やっぱり私はここでは赤井沢 剛の妹でしかない。
その現実に、ほろり、涙が出た。
だったら月島さんにこんな物を渡したら迷惑。
流れる涙をぐいぐい手でこする。
そんな時、手首にかけていた袋がばさり、床に落ちた。