第21章 『 ホントの私を見てください。 』月島 明光
「椎名さんって言うんだ。この時間いつも入ってるよね?」
にかり、と笑う柔らかな光のような笑顔。
それがあの人とのファーストコンタクト。
『あ…はい。』
声をかけられることは慣れた。
飲み屋街と駅の真ん中にあるこのコンビニ。
酔っ払いがよく飲んだ勢いで絡んでくるから、いつものそれと同じ。
そう考えていた。
「下の名前、なんて言うの?」
ほら、やっぱり。
きっと酔っ払いの戯言。
「前から椎名さんのこと、気になっててさ。」
きっと私よりうんと年上だろう。
そんな人が高校生に声かけるなんて、笑える。
なんて心の中で毒づきながら私は営業スマイルをお兄さんに向ける。
『守秘義務、です。お会計、924円です。』
お弁当にパックジュース。
晩酌用のお酒とスナック菓子。
あと、さっきレジ横で追加した小さなチョコ菓子数個。
それらをそれぞれ袋にしまいお兄さんに渡す。
1000円札を渡され、76円のお釣りを渡す。
そして、営業スマイル。
『ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。』
いつもはそれでおしまい。
でもね?
今回は違ったんだ。
お兄さん、胸元から財布じゃないケースを取り出し一枚の紙を取り出すと、ペンで何かを書き込み私に渡す。
「月島明光って言います。こんな業務用の名刺でごめんね?
一応本気ってわかってほしかったから。」
近くの商社の名前とPHSナンバー。
あとから付け足されたプライベートナンバー。
それを見て、ようやくお兄さんの気持ちに気づく。
「もしよかったら連絡くれると嬉しいな。椎名さん?」
私の頭をぽんと撫で、にかり、笑うお兄さん。
『あ…はい…』
渡された名刺をじっと見ていれば、お兄さんは今買ったものが入ったレジ袋をごそごそ漁る。
「お仕事、頑張ってね?」
そう言われ、ぽんと手に乗せられたのはレジ横にあるチョコ菓子。
白黒のパッケージの一口サイズのあれ。
『え…?』
びっくりして思わず顔を見れば、にかっと子供みたいな笑顔。
「頑張ってる椎名さんに。また来ますね?」
そう言いスーツの首元を緩めながらお兄さんは帰って行く。
お兄さんの小さくなる背中を見つめ、ぱくり、チョコレートを口に含めば、それは甘やかにとろり、とろけていった。