第12章 『木曜日の君。』 赤葦京治
振り返ればカウンター内に木曜日の君。
手にはフクロウを模したパスケース。
『あっ!はい。』
彼がいるカウンターに歩み寄る。
一歩一歩近づくたびに心臓が高鳴る。
静まれ、心臓!
そう思ってもなかなか高鳴った心臓は元に戻ってはくれない。
『ありがとうございます。』
「いえ、定期落としたら帰れないからね…椎名さん。」
『私…名前…』
「いつも本借りに来てくれてるんだから覚えるって…1年3組、椎名 夏乃さん。」
嘘
覚えられていたのか…
動揺で顔が赤く染まる。
「これ、欲しい?」
そう聞く意地悪そうな顔。
こくりとうなづけば、こっちにおいで、とカウンター内を指差し手招きされる。
カウンター横の扉を通り、木曜日の君に近づく。
「床、座って。」
『あ、はい。』
ぺたりと座り込むと木曜日の君は私の横に座り込み…
へ?
頭?
足にふわふわ…
「ちょっと寝かせて…15分…」
木曜日の君は私の太腿に頭を置くと両目をつぶった。
『あ!ふぁい!』
私がおかしな返事をした矢先、すうすうと規則正しい寝息が木曜日の君から聞こえてくる。
疲れているのかな…
癖っ毛なのかふわふわの髪の毛をそっと撫でる。
見るだけで満足だった彼がいる私の膝で寝ている。
その事実に心臓がはちきれそうだ。
私は時間が来るまでそっとふわふわの髪の毛を撫でた。