第15章 右手と左手*伊月*
どこへ行こうか相談した結果、お互い面白そうだねって言ってた映画を観に行くことになった。
前日の夜は緊張して、中々寝付けなかった。
待ち合わせの駅前には、10分前に着いたのにもう彼がいた。
「ごめん、俊!結構待った?」
「ううん、俺もさっき来たとこ。じゃあ、行こうか。」
制服姿や体操服、部活のジャージ姿しか見たことないから、初めて見る私服姿に鼓動が速くなる。
学校でもなく、通学路でもない景色の中を二人で並んで歩く。
非日常な状況はまるでフィルターをかけたみたいにキラキラしていて、そして私を少しだけ緊張させた。
「…なんか照れるね。ちょっと緊張してるよ、私。」
「俺も同じこと思ってた。でも心地いい緊張感じゃない?」
そう。何とも幸せな緊張感。
隣に彼の気配があることだけで、胸がいっぱいになる。
お互い顔を見合わせると、自然と笑顔になっていた。
欲を言ってしまえば、彼の空いた右手に触れたいな、なんてね。