第12章 腹黒紳士と私*今吉*
次の電車に乗って駅に着いた瞬間、待ち合わせ場所まで全力ダッシュ。
文庫本片手にベンチに座っている翔一の姿を見つけた。
「翔一…っ、ごめん、なさ…。」
息を切らして翔一の頭上に影を作る。
「そない急がなくても構へんかったのに…。まぁ、とりあえず落ち着き?」
翔一はいつも通りの笑みを浮かべ、ベンチの隣に座るよう促した。
「…ごめん。ちょっと家出るの遅くなっちゃって…。」
ここで下手に言い訳を並べるのは翔一は好きじゃない。
自分の否を認めないと、彼は眉を寄せて怪訝そうな表情を浮かべる。
「ええって、気にしんでも。…そういえばワシ観たい映画あるんやけど、今日それ付き合ってくれへん?」
「うん、もちろん。」
「ほな、行こか。」
そう言うと優しく私の手をとり、指を絡ませ繋いでくれた。
当たり前のように私を歩道側に寄せ、道路側に立って歩いてくれる。
自然にこういうこと出来ちゃうのはすごい。
よかった、今日はご機嫌みたい。