第8章 大人で余裕な彼*今吉*
「今日はこれに行ってみようと思うねんけど、どうや?」
そう言って翔一が自分の携帯を私に差し出した。
「芸術祭?」
「そ。この街の数ヶ所で色んな展示がされてるんやて。歩いて廻れる範囲やし、こうして一日時間がある時やないと行けへんし。」
携帯画面をスクロールしながらHPを読んでいく。
どうやら数年に一度行われるイベントのようで、美術館や芸術センターでその年のテーマに合わせた絵画やオブジェなどが展示されているらしい。
「へぇ…面白そう!行きたい!芸術の秋だしね。」
「おおきに。ほな行こか。」
私の手よりも大きくてごつごつしているけど、とても安心する彼の手。
隙間がないように指を絡め、隣に並んで歩みを進めた。
いつも一緒に帰る時も同じことをするはずなのに、今日は何だか新鮮な気分。
「デート」というものは、日常に魔法をかけるみたい。