第47章 一番の薬*高尾*
朦朧とする意識の中で見えたのは、先ほど帰ってしまったのを伝えられなかったその人だった。
気付けば彼に優しく抱き留められていて、私は甘えてもたれかかった。
「か…ずくん?何で?」
「ちゃん来ねえから、監督に聞いた。てか、昨日から具合悪そうだったもんな。おばさんは?」
「お母さん…今日仕事で…遅くなるって……。」
「そっか。じゃあ帰ってくるまでいてやるから、安心しな。…とりあえず寝てなくちゃな。」
彼は私の体を抱えて部屋へと運んでくれた。
さっきはあんなに長く感じた玄関から部屋までの距離があっという間で、ちょっと残念。
ベッドにそっと下ろされて、おでこに彼が買ってきたと思われる冷えピタが貼られた。
「和くん…うつっちゃうよ?」
「俺バカだから風邪引かねぇよ。…メシは?食えた?」
「…お母さんが用意してくれたけど、だるくて起きられなくて……。」
「じゃあ俺持ってくるから、ちゃん横になってな?」
そう言って私の頭をぽんぽんと撫でて、彼は立ち上がり部屋を出ていった。
具合が悪い時に優しくされると、いつも以上に身に染みる。
元々彼はいつも優しいし気が付くけど、こういう時改めて存在の大きさを実感する。