第44章 囚われの姫君*青峰*
外へ出てからも、大輝は私を抱えたまま歩き続けた。
幸い人気はあまりないけれど、ちらりと人に見られるととてつもなく恥ずかしい。
「大輝…私怪我してないし、歩けるから降ろして…。」
「お前気付いてねぇの?…足、震えてるんだけど。」
すぐに抱えられたから気付かなかった。
私の足は恐怖ですくんでしまい、小刻みに震えていた。
不意にさっきまでの体験がフラッシュバックしてしまい、私は大輝の首にぎゅっと腕を回した。
「…恐かった。」
すると、大輝は私を抱える腕や手に力を込めて、頭を私の頭に寄せてくれた。
子どもみたいだと思っても、ぐすぐすと泣いてしまった。
「青峰、こっちや。お姫さん救出成功やな。」
久しぶりに聞く関西弁に思わず反応して顔を上げると、そこにはいたのは車の運転席から顔を出す今吉先輩だった。
「え…?何で今吉先輩が?」
「話しながら送ったるさかい、はよ乗り?」
帰りの車の中で、大輝と今吉先輩が経緯を話してくれた。
大輝は度々屋上で藍川さんの黒い噂を耳にしていたけど、元々友達だったから鵜呑みにはしていなかった。
「藍川は気に入らない人間を、両親が不在がちの自分の家に連れ込み、脅したり怪我させたりする。」
信じていなかったけれど、今日一緒にいた時どこかいつもと違っていたので、私がいなくなった時カマをかけたのだという。
彼女の家は知っていたので、車で行った方が早いと判断して、今吉先輩を呼び出して途中で合流して来てくれたらしい。
こんなことで大輝の気持ちを実感してしまうなんて、何て皮肉なんだろう。
今吉先輩がハンズフリーで電話している間に、私は隣に座る大輝の袖を引っ張った。
「…何だ?」
「ごめんなさい。…ありがとう。」
気持ちに気付けなかったことへの反省と、いつも助けてくれて守ってくれることへの感謝を込めて。
「…お前いねぇと、俺がダメなんだよ。」
そう呟くと、大輝は耳を赤くして窓の外へと顔を背けた。
大輝のそんな言葉と態度を見てしまったら、もう疑うことなんてできない。
今だけは素直に気持ちを伝えようと思った。
「好き。」
そっと呟いた告白に、大輝は私の手を握って応えてくれた。
これからは、ずっとずっと信じられる。