第44章 囚われの姫君*青峰*
車に乗せられている間も体の自由を奪われていた。
車から降ろされると、建物らしきものの中へと誘導された。
足が止められ椅子に座らされると、塞がれていた視界に光が戻った。
周りには2人の男性。
1人は私に刃物を突き付けているし、1人は逃げられないように扉の前に立っている。
「ねぇ、一つお願いがあるんだけど。」
どこかで聞いたような女の子の声に顔を上げると、そこにいたのはさっきまで一緒にいた彼女だった。
「…藍川さん。」
「青峰と別れてよ。」
笑っているのにその瞳は冷たくて、まるで貼り付けられたような笑顔だった。
「やっぱり大輝のこと好きなの?」
「私の方がずっと前から青峰のこと好きだったのに…。後から横取りなんて、貴女ごときにする資格なんてないの!」
横取り?資格?
大輝は物じゃないし、好きになるのは自由でしょ?
「…絶対に嫌。」
抑えきれない怒りが表れた目で、藍川さんを睨み付けた。
すると、私の顔に刃物がさらに近付いてきた。
「傷つけられたくなかったら、別れて。」
言葉とは裏腹に浮かぶ彼女の笑みは、狂気に満ち溢れていた。
恐い。恐い。恐い。
拒み続ければ、もしかしたら殺されてしまうかもしれない。
それでも、私が大輝の隣にいたい。
「大輝が好きだから、別れない。」
彼女を真っ直ぐ見つめてその言葉を口にすると、彼女は顔を真っ赤にして私の頬を平手で思い切り叩いた。
「…許さない。大輝に相応しいのは私なんだから!」
悲鳴のような叫び声に私はびくりと体を震わせながら、じんじん響く頬の痛みを堪えた。
その時扉の外で何かが倒れる音がして、ゆっくり扉が開いた。
「おい。俺の相手をお前が勝手に決めてんじゃねぇよ。」