第41章 言葉足らずだけど*花宮*
二人で帰ることもようやく少しずつ慣れてきた。
「最近また寒くなりましたね。」
話を切り出すのに、いつも無難に天気を話題にしてしまう。
下手な話題を出すと、彼は私を小馬鹿にするから。
すると、彼は何も言わずに自販機で缶コーヒーを買って私に手渡した。
「いいんですか?」
「俺が寒いんだよ。別にお前のために買ったんじゃねぇよ。」
冷たい空気のせいか、彼の耳が赤くなっているように見える。
「花宮先輩、ありがとうございます。頂きます。」
自分用のはブラックのコーヒーなのに、私のはカフェオレ。
私がブラック飲めないの、ちゃんと知ってるんだ。
カフェオレの暖かさが冷えた身体に染み渡る。
「…花宮先輩って何だよ。」
彼はそう言うと、また明後日の方向を見てコーヒーに口を付けた。
さっきのマフィンの時のことから想定すると…。
「…真先輩?」
勇気を出して、初めて彼の名前を声に出した。
単純なことなのに、まるで呪文のように広がって、熱になって、私の顔を赤くした。
「バァカ!いきなり呼んでんじゃねぇよ!」
「…ごめんなさい。じゃあやっぱり花宮先輩…」
「お前が呼びたいなら好きにしろ。」
彼はふいっとそっぽを向き、私より一歩先に歩みを進めた。
私、気付いてしまった。
恥ずかしいと顔を背けるんだ。
今タイミングが少し遅れて、真っ赤になって少し焦ったような表情も見えてしまった。
「真先輩、待ってください。」
私は彼に追い付いて、制服の裾を掴んだ。
「隣にいたいです。」
すると、彼は私の手首を掴み、自分の腕へと導いた。
「こうしとけ。」
確かに腕を組んでいれば、隣にいられるし距離が近い分暖かい。
ちょっと困らせたくて腕にぎゅっとしがみつくと、彼はまた目を見開いて顔を真っ赤にした。
「離れろ」って言わないのは、「いいよ」ってことでしょう?
優しい笑顔や、甘い言葉はないけれど。
想いを伝えるのが下手くそだけれど。
そんな不器用な彼との始まったばかりの恋に、私は心が弾んでしまう。