第39章 前後から伝わる気持ち*高尾*
気付けば駅はもう目の前だった。
「着いたぜー。…ぶっは!ちゃん、髪ボサボサになってんぜ?」
「えっ!?しょうがないじゃん、風当たるし…。てか、そんなに笑わないでよー!」
笑いながらも私の髪を整えてくれる彼の手つきは優しくて、心がくすぐったくなった。
「はい、直った。」
「いつもありがとうございます…。じゃあ…また明日ね。」
「そだな。じゃ、気を付けてな。」
お互い手を振って、彼は自転車に跨がって出発しようとした。
「…ちゃん!」
見送ろうとしていたのに名前を呼ばれて、彼は私を手招きしている。
なんか忘れてたことでもあった?
とりあえず彼の元へと戻った。
「何?何かあったっけ?」
すると、彼は何かを企んだように笑みをにっと浮かべ、私の頬に両手を添え唇を奪った。
不意討ちのキスで、心拍数が急上昇したのが自分でもわかる。
「忘れ物!じゃあなー!」
泥棒するだけして、彼は自転車で走り去ってしまった。
「…やられた!」
冬の冷たい空気の中なのに、身体は火照る。
いつも優しく、明るく、たまにときめく悪戯を仕掛けてくる彼。
私ばかりドキドキさせられてしまっているみたいだ。
彼の心中をよそに、私はそんなことを考えていた。
あの時聞こえなかった彼の言葉は。
「じゃあ緑間くんに感謝しなくちゃ。…私、不謹慎だけど和くんと一緒に帰れて嬉しいもん。」
「…今顔見えなくて良かった。絶対赤いわ、俺。」