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黒子のバスケ*Short Stories2

第37章 不器用な君と/笠松*宮地


玄関に足を踏み入れるなり、「ちょっと待ってろ。」って言われて、5分くらい待った。

初めてお邪魔する幸男の部屋。

月バスや音楽の雑誌がずらりと本棚に並んでいる。

いつも着ている制服もハンガーにかけてある。

部屋の扉が開き、幸男が飲み物とお菓子を持ってきてくれた。

トレーにはおしゃれなティーカップに注がれた紅茶と、お皿に並んだ美味しそうなクッキー。

「幸男、普段から紅茶とか飲むの?」

「ちげぇよ。母さんが用意してた。…見栄張りやがって。」

お母さんの気持ちを有り難く感じながら、紅茶に口をつけた。

「…さてと、幸男ギター聴かせて!」

「お前もう少し茶飲んどけよ!…まだ準備出来てねぇっつーの。」

いつも私を引っ張ってくれる幸男が焦る様子もまたいじらしい。

幸男は使い慣れていそうなギターを取り出し、ピックを持って弦を弾いた。

「…弾くぞ。」

その言葉を皮切りに始まった音楽。

ごつごつした大きな手から奏でる音楽は、驚くほどに暖かくてじんわり胸に染み込んだ。

素朴で優しい音が、私を包み込む。

幸男の方を眺めると、私の方なんか見る余裕がないほど必死で自分の手元を見つめている。

曲が終わると、幸男はふーっと大きな溜め息をついた。

「素敵だったぁ…。なんか幸男のギターの音ってすごく心地よかった。」

「…そうか。ならよかった。人前でなんか弾かねぇから、すげぇ緊張した…。」

「私、幸男のギター好きだよ。」

思ったことをそのまま口にしたら、幸男は顔を真っ赤にして、でもいつもみたくしかめっ面はしていない。

頭をくしゃっと撫でられたので、幸男の顔を覗き込むと照れくさそうな笑顔を見せてくれていた。

今弾いてくれた曲は、この恋のテーマソング。

ずっとずっと、心の中にあの音が残っている。
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