第37章 不器用な君と/笠松*宮地
足を踏み入れたのは、大手の楽器店。
見渡せば、ドラムやキーボード、ギターなどがずらりと並ぶ。
そういえば、前にたまにギター弾くって言ってたな。
あっという間に私は置き去りにされて、幸男は辺り一面のギターに目を輝かせている。
私にはわからないけれど、珍しい種類のものとかもあるんだろう。
とりあえずキーボードに触ってみたり、雑誌や楽譜を見たりして時間を潰す。
…そうだ!
「悪い、。行こうぜ。」
私を放置していたことに気付いたのか、少しばつが悪そうな顔で幸男が戻ってきた。
「もういいの?」
「ああ。見たことないやつとかあったから、夢中になりすぎた。」
次どこ行こうね?なんて話しながら、並んで歩く。
正直時間も微妙で、今からどこかへ遊びに行くのも家に帰るのもちょっと…という時間。
「ねぇ、幸男。一つお願いがあるんだけど。」
「なんだ?」
「私、幸男がギター弾いてるの見たいな。」
「はぁっ!?」
眉を寄せてしかめっ面する幸男に、先程握った弱味を付き出す。
「…さっき放っておかれて寂しかったんだけど。」
すると、幸男はぐっとたじろい、難しい顔をして携帯電話を取り出した。
「…もしもし?今から家でギター弾いていいか?…うん。彼女…連れていく。」
どうやら家族に許可をとってくれていたみたいで、私のことを「彼女」と呼んでくれたのが何だかくすぐったかった。
電話を切ると、幸男は少し顔を赤くして渋い顔をしたまま私を見た。
「今から出掛けるからいいってさ。…言っとくけど、上手くはねぇぞ。」
「上手さは関係ないよ。私は幸男のギターが聴きたいの。」