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黒子のバスケ*Short Stories2

第34章 そっとぎゅっと*水戸部*


不意に、腕を後ろから引かれた。

どうして別れることを止めるの?

「いやだ」って言ってるみたい。

背を向けた瞬間から、私の目からは涙が溢れていた。

そんなぐちゃぐちゃの泣き顔見せたくなくて、後ろにいる彼の方へ振り向くことはできなかった。

すると、肩を掴まれ向きを変えられ、彼と向き合わざるをえなかった。

彼は俯いて肩を揺らして泣きじゃくる私の頬を両手で抑え、自分の方に向かせた。

真剣な眼差しで射抜かれて、とうとう想いが口からこぼれ落ちた。

「何で…止めるの……。水戸部くん私のこと好きじゃないんでしょ?…気持ちが分からなくて不安なの。」

そっと彼の指が私の涙を掬いとる。

そして彼は、ぎゅっと優しく私を抱き締めた。

手すら繋いだことがなくて、彼に触れるのは初めてだった。

不思議なことに、抱き締められると何だか落ち着いてくる。

知らないうちに涙は止まって、彼の胸に顔を寄せていた。

耳に伝わる彼の鼓動は速く、「ドキドキしてる」って言っているみたい。

体に伝わる彼の温もりは暖かく、「側にいたい」って言っているみたい。

それを嬉しく幸せに感じるのは、やっぱり私は彼が好きだから。

言葉にしなくちゃわからないこともあると思っていた。

だけど、彼は言葉を話さない代わりに体を全部使って気持ちを伝えてくれたような気がした。

言葉がなくても私は彼に惹かれていたじゃない。

重い荷物は何も言わずに持ってくれた。

毎日私の分までお弁当を作ってくれた。

「おはよう」と「おやすみ」のメールは必ずしてくれた。

優しい気持ちを私が見逃していただけだ。

たくさん「好きだよ」って言われるより、一度抱き締められた方が想いが伝わるんだ。
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