第34章 そっとぎゅっと*水戸部*
彼が徒歩通学なのは知っていた。
だから一緒に歩けるのは駅まで。
いつも私が話して、彼がそれに対して反応する。
私が口を開かない今日は、重苦しい沈黙が流れていた。
彼もいつもと違う私の様子に気付いている。
さっきから何度も何度も私の方に目線を送っている。
駅が見えて、だんだん大きくなってきた。
タイムリミットだ。
駅の手前の、人気のない細い道へと彼を引っ張った。
今日は一度も合わせていない目線を、初めて合わせた。
彼の不安げな表情は変わっていない。
「…水戸部くん、あの…私から言ったのに申し訳ないんだけど……。」
もう決めたんだから、最後まで言わなくちゃ。
どうせ彼は何も言わないから、答えだって返ってこない。
優しい彼が無理に私と付き合ってくれていたなら、解放してあげられる。
「別れよう。」
その言葉を口にした時は、もう彼の顔を見ていなかった。
内に秘めていた言葉を外に出しただけで、思いが込み上げてくる。
涙となって気付かれる前に、逃げ出してしまおう。
彼に背を向け、駅へと走り出した。