第17章 小さなきっかけ、大きな始まり*灰崎*
「おら、さっさとやるぞ。」
その鋭い目で一目見られただけで、突き刺されるような感覚に陥る。
うぅ。恐い。殺される。
でもやらなきゃ終わらないし、元バスケ部レギュラーなら絶対バスケ上手いし…。
腹を決めた。
「灰崎くん、よろしくお願いします。私、です。」
けじめをつけるため、頭をきちんと下げ、名前を名乗ってみた。
きっと同じクラスであっても目立たない私のこと知らないはず。
「名前くらい知ってるっつーの。…ほら、そっからドリブルしてシュート決めてみろ。」
意外な事実に驚きつつ、指示された通りにボールを手から地面へと打ち付け、ゴールの近くでボールをゴールへ向けて放った。
「あーあ。全然だめだな、お前。マジしょぼいわ。」
…仰る通りでございます。
だけどもうちょっと言い方とかないの!?
と、言うことは恐ろしくて出来ません。
黙って項垂れていると、彼が口を開いた。
「ボール貸せ。見てろ。」
恐る恐る手渡すと、まるで手とボールに引力が働いているかのようなドリブルでゴールへ向かい、そのまま軽くボールを放った。
当然のようにボールはゴールへと吸い込まれた。
素人目でもわかる鮮やかなプレイに思わず見とれてしまった。
「おい。お前ちゃんと見てたか?…もしかして見とれてたんじゃねーの?」
「すごいね…。本当に見とれちゃった。」
自然と口から溢れた言葉に私も少し驚いた。
「はぁっ!?…マジかよ。」
彼は少し馬鹿にしたような笑みを浮かべていたが、ほんの少しだけ顔が赤くなっていたような気がした。
そこからは何もなかったかのように練習を始めた。