第17章 小さなきっかけ、大きな始まり*灰崎*
今日がいよいよ最後の日。
あれから彼は口調の乱暴さはあっても、意外にもしっかり練習に付き合ってくれた。
「お前がチクったら面倒だから。」とか言ってたけど。
日も段々と暮れ始め、刻々とタイムリミットが近付く。
何故だか少し寂しいな、と思ってしまう。
「灰崎くん、結局今日までシュート決められなくてごめんなさい。」
結局今日この時まで、私の放つボールはゴールに嫌われていた。
「あ?何でお前が謝んだよ。」
「だって、折角時間作ってもらったのに…全然結果出てないもん。」
きっかけはどうであれ、彼の教えを無駄にしてしまったのは申し訳なかった。
「別に。まぁ…最初に比べれば少しはマシになったんじゃね?」
最後の最後で贈ってくれた誉め言葉。
それが何故だかとても嬉しくて、私はもう一度ボールを持って、ゴールと向かい合った。
「最後にもう一回だけやってみる。」
「…勝手にしろ。」
腕を組みフェンスにもたれかかる彼は、気だるそうにしていても目はちゃんとこちらを向いている。
初めて彼のプレイを見た時のイメージを鮮明に頭に思い浮かべた。
練習中に彼が投げやりに浴びせたアドバイスを思い出す。
ボールを宙へと放つと、嘘みたいにゴールへ吸い込まれた。
「入った…。やった!灰崎くん、ありがとう!」
彼の方へ駆け寄ると、ぽんと手を頭に置いてくれた。
「ま、いいんじゃね?」
彼は人を嘲笑うような笑みではなくて、少し穏やかな目をして、口元を緩めていた。
なんだかじんわり胸が暖かくて、でも少し締め付けられるような感覚がした。
正直、この気持ちは何なのかわからない。
また明日から彼との繋がりは無くなってしまう。
だから、思ったことは全部伝えよう。
「灰崎くん、私この1週間楽しかった。バスケしてるところ、すごく格好よかった。…高校でまたバスケしなよ。」
「…わかってる、そんなの。」
出来るのなら、この言葉が彼の中に残ってほしい。
私の存在はちっぽけだけど、頭の片隅に置いていてほしい。
いつか、また私と彼が繋がれたら。