第5章 贈り物 三男
ある晩のこと。
最近兄弟と飲むことが多いし、たまにはひとりで、と思ってこじんまりとしたバーへ足を運んだ。
薄暗い店内には客の姿がちらほらと見える。初めてくるけどいい雰囲気だな〜とか、バーテンにかわいい女の子いるじゃん!なんかカクテル作ってくれないかな〜!みたいなことを考えていた。
(というかこのバーテンに一杯おごれば飲めたりするのか‥‥?)
他の兄弟がいない今、暴走する僕を止める人なんて居らず、バーテンの女の子に話しかけてみた。
「あの、そこのバーテンさん」
『はい、何かお作りしましょうか?』
にこりと微笑んで対応されると所詮チェリーな僕は真っ赤になってしまった。女の子が絡むとポンコツ、なんて言われているし、きっとそれが発動してしまったのだろう。
「え、えっと‥‥一杯奢るんで、飲みませんか‥‥?」
震える声で、どうにか意思表示をすることができた。
『よろしいんですか?』
「は、はひっ!」
噛んだ。盛大に噛んだ。
『ありがとうございます』
そんなこと気にも留めていないのか、バーテンさんは僕が適当に指さしたカクテルを作り始めた。白く透き通るような細い指でシェイカーを振るその人はとても嬉しそうだ。奢るって言ったの、間違いじゃなかったな。そんなことを考えていた。
程なくしてできあがったカクテルは、緑色のカクテルで【エトレーヌ】という名前だそうだ。グラスには可愛らしいリボンまで結んである。
「なんでリボンがついてるんですか?」
『このカクテルは【贈り物】という意味があるんです。だからグラスにリボンを結んでいるバーは多いんです。お客様からの贈り物みたいですね』
(カクテルに意味なんてあるのか。下手なカクテル選ばなくてよかった)
笑顔で語るバーテンさんを尻目に、そんなことを考えていた。
「じ、じゃあ、これはどんな意味があるんですか?」