第12章 君の名を(爆豪勝己)
ブーーーッ、と堪えきれなかった何人かが吹き出した。
……あ。そっか、携帯じゃなくて爆豪くんの"個性"が暴発したのか。
プラスチックの焦げた臭いと、床に散らばる欠片。
うん、これはいよいよ殺されるかもしれない。
「えっと、まだちょっと信じられないんだけど、君の名前は、さん……で合ってるのかな?」
瞼の裏に流れ始めた走馬灯に思いを馳せていた私に、ミドリヤくんが若干ビクつきながらも助け舟を出す。視線は相変わらず泳いだままだけれど。
「さっきの発言は間違いなくかっちゃんだった。でも女の子の声……?になってたってことは、身体が乗っ取られた訳ではなく、かっちゃんとさんの精神が入れ替わってるって事だよね。……これはさんの"個性"によるものなの?」
「ち、違うんです!私の"個性"は他人の視界を覗くくらいの事しかできなくて……こんなの初めてなんです!」
「"個性"の発動条件の様なものはありまして?」
遠慮がちに、でも核心をつくような質問はシャンプーのCMに出てたヤオロヨズちゃん。今はそんなこと言ってる場合じゃないってのはわかってる。……でもね、サイン欲しい!!
「すみません、わからないです……戻る時間もいつもまちまちで……」
その時何かが乗り移ったかのように、ミドリヤ君が俯いてブツブツと呟き始めた。
「特殊な条件?体調や精神面の問題?もしかすると入れ替わる対象との相性、それかかっちゃんの方にも何か条件があったのかもしれない……第三者の介入?……可能性はあるけれど、トリガーがさんの個性であるのは間違いなさそうだし……いや待てよ、そもそも前提条件がおかしいのか」
結論に辿り着いたミドリヤくんにみんなの視線が集まる。
遠慮がちに、しかし自信有りげにはっきりと。彼は一つの仮説を口にした。
「今までは使いこなせていなかっただけで、これが本来のキミの"個性"だとしたら?」
私の、個性……?
「え、ちょっと待って!だって中学のときの個性診断でも、そんなこと言われなかったし、それに今までは……」
混乱する頭の中でもうっすらと気づき始める。その仮説が正しいとすれば全てが腑に落ちる。