第11章 嘘つきヒロイック(物間寧人)
「お願いがあるの」
その日、初めて私から物間を呼び出した。
「……私の血を一滴残らず吸って」
馬鹿馬鹿しいとでも言いたげにフンと笑う物間。
「なんなの?将来有望な僕に前科でも付けたいの?悪いけど他を当たってよ」
物間が自意識過剰な利己主義ゲス野郎だったら良かったのに。
ずっと嫌いでいれたら良かったのに。
その願いはもう、叶わない。
「……拳藤さんから聞いた。アンタの能力5分しか持たないって」
物間は不愉快そうに顔を歪めた。
「……余計な事言いやがって」
ずっとあの鼻を折ってやりたいと思っていたが、それがまさかこんな最悪の形で訪れるとは。
「ゴメン。ずっと物間の事、嫌な奴だと思ってた……物間のこと何も考えずに甘えて、血貰って……私。もう嫌だ、こんな思いしながら生きてくなんて!……なんで私なんか救けたの?私なんかッ」
「救けたいって気持ちに、理由って必要?」
死んだほうがマシだ。そう続くはずだった叫びは、インディゴの瞳に飲み込まれた。
皮肉も、侮蔑もない、ただ真っ直ぐな青色に。
「……そんな綺麗事は要らない。私はもうこれ以上罪を上塗りして生きるのはゴメンだ!アンタが殺してくれないならここから飛び降りる」
金網を乗り越えようとした私はいつかのようにぐい、と引かれ、そのまま温かいの腕の中に収まった。
あの日とひとつ違うとしたら、柔らかい唇が重ねられていることくらい。
「死ぬなんて言って欲しくない。僕はが好きだから」
耳は確かに言葉を捉えた。しかし自分でも信じられないくらい何の感情も湧いてこなかった。
現実離れした出来事に、頭の中はすでにキャパオーバーで。物間の事を受け入れることも拒絶することもできない私は、ただ汗ばんだ手のひらを握り締めていた。