第11章 嘘つきヒロイック(物間寧人)
「げ……」
ある日、昼休みも半分が過ぎた頃。食べ終わった食器を片付けようと席を立ったところ、運悪く奴と遭遇した。
「あれー?じゃないかぁ。へぇ君も人間と同じ食事を取るんだね、野蛮人の癖に」
食堂で人の神経を逆撫でするあの笑い声が響く。
「うるさい、放っと、い…て……?」
ガツン。背後から加えられた一撃で物間は沈んだ。
「ゴメンなー!ウチのクラスメイト、ちょっと心がアレだからさ」
「心が、アレ……」
姉御肌の女子に先手を取られてしまい、行き場を失った怒りは風船の空気が抜けるようにしゅるるとしぼんだ。
「B組の人、ですか?」
片手で気を失った物間を引きずる姿は、手慣れたものだった。
「あ、うん!私はB組の拳藤一佳。えっとそっちはさん?、だよね?」
「あー、はい…です」
さっきの物間に大声で名前呼ばれたのが聞こえたのか。恥ずかしい。
「物間とはどういう関係なの?いや、コイツがA組以外に突っかかるの珍しいと思ってさ。もしかして同じ中学?」
「いえ、違います」
「ええ?じゃあ、付き合ってる…とか?」
「……っ!それも違います。ただ一方的に絡まれてるだけなんで」
不快感を表情に出さないように押し殺してなんとか答えた。
「だよね~、ゴメンゴメン忘れて!」
最初に血を吸ったのも、交換条件を出したのも、いつも連絡を取ってくるのも全部アイツからだ。
逃げられるものならとっくに逃げている。
「それより拳藤さん、物間に変な事されてませんか?」
「ん、変な事?」
「以前物間に"個性"をコピーされて、私の"個性"危ないからB組の人にケガさせてないかなって心配で……」
「ああ!それなら問題ないよ!なんせ物間のコピー能力は"5分間"しか持たないから!」
「……え、」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
そして理解すると同時に身体中を悪寒が走った。
休み時間にコピーしたとして、5分ぽっちじゃ授業でなんて使えやしない。
「あ、ヤバ……次移動教室だった!じゃあね、さん!」
物間寧人は嘘をついていた。何故か?
そんなの簡単だ……
「私に、血を吸わせる為……」
最低だったのは、私だ。