第11章 嘘つきヒロイック(物間寧人)
「キミさぁ、いつもさっきみたいに他人の血を吸ってるの?」
保健室の棚から出した絆創膏を消毒した自身の首元に貼る。
対して涼しい顔をしているが、男の傷口はまだ血が止まっていない。
私の唾液に血液の凝固作用を妨げる物質が含まれているからだ。
「他人の血は吸わない。病院に行って輸血用のやつ処方してもらうの。私は……悪い奴の血しか吸わないって決めているから」
今更何を言っても手遅れかもしれないが、"個性"が発動してからの11年間私はそう誓って耐えてきたんだ。
「へぇ、そうなんだ」
それは殊勝な心掛けだね、と皮肉めいた称賛。
心臓を直に掴まれているかのような、居心地の悪さだった。
「……お願いします…"個性"のこと、誰にも言わないで下さい」
「わかった、誰にも言わないよ……って言ったところでキミ信じる?」
私は言葉に詰まる。それは答えたも同義だった。
「そうだ、じゃあ僕からも交換条件を出そう。大丈夫だよ、キミにとっても悪い話じゃないからさァ」